一握りの塔                      けい 森の向こうの茫漠たる白い空き地で ふわふわ遊ぶ白鳥の羽根と、ゆらゆら揺れる地平にまじり あなたは静かに遠く両手を伸ばす やがて腕には葉脈が、ふくらはぎには根が走る 髪はいつしか雲を絡めて鋭く輝き 零れ落ちる大粒の雫は明日と大地を静かに潤す ああ お前たちは お前たちに お前たちが あなたが遥か眺める荒野と鉄 罪と恥を刻み込まれた石の牢 群がる蟻 蠅 蛆 あなたの眼の前で朝日はどろりと溶暗し あなたの背後で夕日は冷却され固定される 眼をとじる 時間はひそやかに流れはじめる あなたは掴まれ攫われて 至近で死を再生される 死者には冷徹な鉄の楔を打ち 鉛の鎖で繋ぎ留める 天から引き摺り下ろすのは 人間 森の向こうの茫漠たる白い空き地で ふわふわ遊ぶ白鳥の羽根と、ゆらゆら揺れる地平 夢見る希望の種と幼子の心を持つ君たちは去れ 海を越えるのだ やがて辿り着いた庭園で どうか僕を忘れておくれ 体に染みついたガラスの煙と葡萄色の血を洗え 生きるのだ 僕の心臓をつかむ紺青の手 放たれることはない 埋めることのできない谷に ああ お前たちは橋を架ける 犯されることのなかった聖域の 哀れで惨めな崩落 張り巡らされた蜘蛛の糸にあなたは絡めとられる そうしてまた一つ地上に影を落とし 僕のそばの灯は 赤い蝋燭のように吹き消されるのだ まぶたの裏側で涙は飽和する 生きる術を得るために生きるのだろう 目的は初めから決定されている 生まれ落ちて初めて探す 埋められるはずはない 埋められない 胴体と本能だけで彷徨い漂う お前たちに お前たちが どうかあなたはその手を突き入れて その海を泳ぎ出ておくれ もはや誰もが忘れてしまった 昇天と恍惚の融合点めがけて すべてはこわれる願望を抱えている こわれて安定し 白い空き地に包まれることを願っている あまりに保存され過ぎている お前たちの祈りはいらない